『現実主義勇者の王国再建記』で何故港を作ろうとしたのだろうか。

ただの疑問だが。

 

 放映中の『現実主義勇者の王国再建記』では、勇者は食料不足の解決を中心として話が進められている。7話では、勇者は首都の近くに港湾都市を建てようとするのだが、これも食料不足解決の手段として行っている。ところで、港湾都市を建てることが本当に食料不足問題に対して意義のある行為なのかという疑問が本稿の主題である。

 

 勇者はそれまでにもいくつかの策が行われていたので、王国並びに世界の現状とともに紹介したいと思う。

 世界の温暖な地域では魔物の侵攻が進んでいる。そこでは綿花が栽培されており、魔物による侵攻の影響で綿花の供給が減少、価格が高騰していた。王国内農家の多くは利益の為綿花への転作が進んでいた。食料の輸入に頼る割合が高まる中、他国でも転作が進んだ為、食料の輸入が出来なくなっていた。

 ここで勇者は、綿花から食料への転作を進めた。同時に王国によって食料の一括買い上げ・廉価での販売を行った。また、転作には時間がかかるため、それまで食用とみなされてこなかった食料とそのレシピを広めることで直近の食料不足を緩和させた。

 

 以上の施策を済ませたうえで港を立てる計画を打ち出した。その意図は作中で勇者が語っている。

 転作の効果が現れるのは時間がかかる。それまではやはり供給不足の状況が続く。そこで割合食料の余っている地域から足りていない地域への食料の融通が出来る様にすれば、安価な価格で安定して供給出来る(この理屈を需給曲線を用いて示している)。だから陸路・海路を連携した港湾都市を建設せねばならないという寸法です。

 

 と説明してきた中でも、気になる点が3つあります。

 

 まず一つ目ですが、転作の効果が出てくる前にこの港湾都市の効果を得ようとしていますが、間に合うでしょうか。この世界には土木工事に適した魔法が存在するとは言え、作物が育つよりも早く都市を建設することは可能でしょうか。例えばトヨタのウーヴンシティは建設予定としては4年程掛かる見込みです。都市の規模や技術レベルにもよりますが、すぐに終わらせられる物ではないでしょう。また、作中では当初の予定地に津波の危険性ありと判断し場所を変更しています。また同時に盛り土や避難経路の設定など更に工数が増えています。また、都市が建設出来れば良い訳ではなく、実際に交易が成功するまで時間が掛かります。

 対して作物が育つ期間ですが、植え付けから収穫まで3ヶ月から半年(特にソースはなく感覚で設定しています)と見れば、適切な季節を待つとしても一年半程度で収穫は終わるでしょう。比較すれば都市建設はかなり長期的な政策であると言って良いでしょう。

 この世界は我々の世界と異なる為一年の長さなど、一概に論ずることは出来ませんが、綿花が出てくるなど類似性も見受けられるので、作中で説明される部分以外は概ね同じと見ていいでしょう。

 

 そして二つ目ですが、比較的食料が余っている地域は存在するのか、存在したとしてそれを知っているのか。そこから食料を持ってくることは可能なのか。という点です。勿論既に新たなレシピの広告により、比較的食料が余っている場所はあるかもしれませんが、それらは自分で食べるために用意したであろうものであるし、食べ切れないほどあるかというと疑問が残ります。三つ目の疑問点にも関わりますが、食べきれない分は既に交易されているように感じられます。

 

 最後に三つ目ですが、そもそも流通は今まで整備されていなかったのでしょうか。一度今回の食糧危機の原因に戻ってみます。

 温暖な地域での綿花栽培が不可能になった為、自国で栽培し利益を上げていたところ、他国でも綿花が栽培され値崩れ。食料も高騰し輸入できなくなった。

 この現象が起きるには他国との貿易が可能であり、かつそれが円滑である必要があります。

 勿論そこまで円滑でなくとも食糧危機は起きうるでしょう。例えばモノカルチャーで、多くの財が輸入で賄われていたが政治的な理由により貿易停止、或いは病により植物が全滅などです。このような事態であれば転作が長期間に亘り進行し、ある瞬間に貿易不可能になった。ということがあり得ます。

 しかし今回はそうではない。魔物の進行に乗じて利益を得ようとした者が多く出てその結果綿花価格が暴落したと見ることが出来ます。このような行動に出た農家の考えを想像すれば、「綿花を栽培し売り抜くことができ、食物を購入することが出来るだろう」と考えていたと理解することが出来ます。かなり貿易の存在が国民の意識に浸透していることが分かります。

 農家が食料を買うことができると考えるのは極めて流通が整備された証左と言えるでしょう。例えば税としての農村から都市への一方的な食料の移動であれば、途中でまとめて1箇所に集めるので、そこまでの流通能力は必要ないかもしれませんが、農村に対して食料を運ぶということは農村から農村への移動が想定されることになります。今回は国外→各農村の流通経路を持っていることを意味しています。それも商品作物を売って自分の食い扶持を購入する程度の太さを持っていると言えます。

 実は王国には既に港が存在しているのですが、そこから各農村への流通があるのでしょう。そのように考えると、港を新たに建設することによって、流通に与える影響はどれほどのものかと考えれば既存の港との交易ができるくらいであろうといえるでしょう。

 

 このように考えていくと、港の建設の効果については疑問が残る部分があります。勿論長期的な効果は確実にあるでしょう。しかし、隋の煬帝が建設した運河が唐の時代に効果を発揮したように、現在の国を再建するには些か長い視点すぎるようにも思えます。勿論この作品にそこまでの細かさを求めてはいけないという意見も分かりますが、現実主義と銘打っているのですから、今後の展開に期待します。