Twitter社によるトランプ氏のアカウント凍結の何に切れていたのか

私の興味の範疇である、表現の自由がどこまで守られるべきでどこからはそうでないのかという議論の途中にある話だと思うので、ここに残しておきます。

 

そもそも、私はどのように表現の自由と向き合っているのかについて記しておきます。

 

まず、自分のスタンスとしては、全ての人は、あらゆる表現を、その表現の如何によってのみで検閲されることは例外なくあってはならないという立場です。

 

「表現の如何によって」というのは例えば性行為の接合部が見えているかどうか、であったり、芸術性があるかどうか、といった表現の中身に踏み込んで判断をしているかどうか、ということです。つまり私のスタンスとしては、表現の中身を見ずに検閲を行うことはアリということになります。

 

検閲されない状況とは何か、という話ですが、「ある者が当該の表現物を、凡ゆる人の目に触れる可能性を有する状態に、また、他の者が当該表現物を見るかどうか選択できる状態」、と私は考えています。

つまり、私が絵を描いたとして、その絵を見せようと思ったら、全ての人が事前にその絵がどのような物なのかを知り、その絵を見るかどうか選択出来る状態にし、その絵を見ようと思った人が見ることが出来る様に出来れば検閲されていない、と考えています。要するにゾーニングがなされていたとしても、ゾーニングされた内側の表現物の存在と属性が分かるようにされていればそれは検閲されている訳ではないという考えているということです。

念頭に置いているのは、AVコーナーです。暖簾があって(ない場所もありますが)全ての人に見せることがなかったとしても、その存在を暖簾を見た者に外から知らせることは出来ますし、それによって表現物を見ようと思った者はそれを妨げられることはない、という点であれは検閲ではないと考えています。ただし、その中に入ってはいけないとする未成年者や、そのコーナーにすら置いてはいけないとする猥褻物については検閲がなされていると考えています。

 

さて、トランプ氏の凍結についてですが、以上の私のスタンスに照らし合わせると、Twitter社の縄張りの中でトランプ氏が表現不可能になったとき、トランプ氏は自身の表現を全ての人が見れる場所に置き、全ての人がその表現物の閲覧如何を決めれる状態に置かなくなっているのか、という問いが出てきます。実際、氏はTwitter凍結直後、(後に出来なくなるとは言え)他のSNSを用いた表現をおこなっています。また、彼の大統領という立ち位置を用いれば他の手段を取りうることは出来ると考えられます。従って、Twitter社による凍結は特段表現の自由を害するものではないと考えられます。

 

このような結論に至ったのはインターネット言論空間において、Twitter社の縄張りであるTwitterはあくまでも一部分に過ぎない、ということです。つまり、インターネット上にアドレスを持つ為の手続きを一括して行なっている主体によるアドレス所持の拒否であったり、iPhoneなど特定のデバイスからのアクセスの承認の権限を事実上独占しているApple社やGoogle社とは異なり(この2社はこの観点からみて検閲と捉えられる行動に移ってはいるが……)、単純にアクセス先を変更するだけで表現者と閲覧者とが対話することが出来るという点で、問題ないという訳です。

また、別の論点になりますが、自身の縄張りをどのような空間にしていくかを決定する権利はその縄張りの主が持っています。つまり、Twitter社はTwitterをどのような言論空間にしていくのかを決定する権利があり、それに基づいて凍結を行うのは問題ない行為であるといえます。この「どのような言論空間にするのか」という方向性はTwitter社とユーザーが結ぶ契約の一つである、利用規約に載っていて、そこには禁止行為がふわっとした表現で会社側が有利に解釈できるように書かれている物です。要するにTwitter社が気に食わない表現は大概利用規約に則り削除ないしアカウントの凍結が出来るのです。

とはいえ、ユーザーとしてはそのような凍結にあった時、どの規約に触れて凍結に遭ったのかは知りたいというものです。明文化されている部分に触れているのか「その他」なのか。この凍結に至った理由の説明がなされず、異議申し立てにもほとんど応じることはないことは普段からTwitter社が批判を浴びる所でした。しかしながら今回のトランプ氏凍結には明確に説明したのである。

Permanent suspension of @realDonaldTrump

問題はこの内容である。このサイトは英語という難解な暗号で書かれていて読者諸君にはアレルギーを持つ者もいるかと思われるので、僭越ながら要約すると、

「ツイート自体は問題ないが、情勢なども考慮すると、テロを扇動していると読めるから」

衝撃の事実である。Twitter社は文脈を読めるのであった。Twitter社は「蚊を殺す」という表現だけで凍結する企業であり、文脈を読めないから「殺す」だけに反応する無能だと思われていたが【凍結問題】「蚊を殺したら永久凍結」にTwitter日本公式アカウントが反論? 反応まとめ - Togetter、実はこれらも文脈を読んだ上で凍結していたのである。なんと生態系に優しい企業であろうか。

 

とはいえ、この文脈の読み方はどうだろうか?

まさに議員に向かって"歩いていった"暴徒に対して「納得いかないかもしれんが家に帰れ」といった旨の表現がテロないし暴動を扇動していると言えるのだろうか?この解釈が出来るのならばどんな表現でも規制できてしまう。ここが気に食わないのだ。

 

主題に戻るが、何故私がTwitter社のトランプ氏凍結を非難したのかというと、別に表現の自由だとかその他お題目の為などでは断じてなく、過去に凍結された韻を踏み続けるだけのアカウントや、松屋の牛丼を食うだけのアカウントがなぜ凍結されたのか、いよいよ分からなくなってしまうからである。

政治家が提案した政策は納得がいくが答弁が気に食わないという気持ちに似ている。他の言い方があったろうに何故その言い方を選んだ?お前この件理解してないだろ?と思ってしまったのである。

この怒りはクソデカ理念に基づく物ではなく単純に個人の契約についてのありようを非難していたのであった。

 

結論としては、今回の一件は別に表現の自由とは関係ありそうで全く関係ない。